翠玉天宮日常活劇シリーズ

詩弥の贈り物・その1

 麻世の部屋からふわふわと漂いながら、ゆっくりと白い細い線をたなびかせて、するすると螺旋を描いてそれは部屋の中に広がっていった。それがどうしても気になる薄紅は、その白い線を手で次々とつかまえようとしていた。それを見るに見かねた麻世は言い聞かせるように声を発した。
「薄紅、それは香の煙よ。つかまえることはできないと思うのだけど?」
「ひまなんだもん!」
 頬をふくらませて精一杯の感情を込めた薄紅、それを見てあきれたように麻世は薄紅を誘う。
「仕方がないわね、お外に遊びに行きましょうか」
「うん!どこいこうかな〜」
 薄紅が考え込んでいると、麻世の部屋のホログラムディスプレイに天宮に荷物が届いたことを示すしるしとともに、ファンファーレが鳴り響いた。
「あらこんなときに何かしら、光速小包なんて」
「薄紅がポストからとってくるね〜」
「あっ、薄紅ちょっとまって!」
 麻世の制止も聞かず、ものすごい勢いで部屋を走り去っていった。薄紅の大きさの煙のトンネルを眺めつつ、少し呆れたようにつぶやいた。
「薄紅一人で大丈夫かしら・・・」

10分後・・・。


「大きくて運べないよぉ!!」
 独り言のような文句をぼそぼそ言いながら、ポストに入っていた大きな箱を抱えて、やっとのことで麻世の前まで来ると、引きずって下のかどがひしゃげた箱を置いてふらふらと座り込んだ。
「だから人の話は最後まで聞くのですわ、分かりましたか?薄紅」
「ふぁ〜ぃ」
 いつもの調子に、いつもの生返事を返す。その様子に一目置いて、ふと宛名書きに目をやる麻世。返信先を見てめずらしく少しおどろいた表情を表した。
「あら、詩弥さんからの贈り物ですわ。薄紅、みんなを呼んできて」
「箱あけてもいい!?」
「だめ!みんなを呼んできてからになさい」
「はーい」
 めずらしくちょっといい返事を返した薄紅は、急いで通路へと駆け出していった。

 しばらくすると、薄紅が深沙と綾音をつれて部屋の中に入って来た。疲れきった顔で。
「深沙おねえちゃんと綾音おねえちゃんと真紅おねえちゃんしかいなかったよぉ!」
 ふくれ顔の薄紅の頭を綾音がなでていると、深沙が口を挟む。
「贈り物届いたんだって?詩弥さんからの」
「そうみたいだわ。さっそく開けてみましょう」
 麻世は少し声を弾ませて、箱のふたを開けた。
「何かしら・・・これ・・・」
 みんながいっせいにのぞき込む。そこには大きな箱の真中に小さな丸い青い物が置かれていた。しばらくにらみ合い続き、その沈黙を最初に破ったのは綾音だった。
「どこかでこんな形の見たことあるような・・そうだ!こうやって使うのよ!」


 綾音が静かに息を吹きかけると、低いなんともいえない音が麻世の部屋を包み込んだ。つかの間の沈黙の後、今度は薄紅が何かひらめいたらしい。
「う〜ん・・・こうやって頭の上にのせると楽しいよ!」


 その様子を見た深沙は、仕方がないといった表情で自信満々に。
「みんな分かってないな〜。これはこうやって使うの」


 というなり、おもむろに赤いリボンを持ってきて細い部分に結びつけた。麻世は不思議そうに。
「それはいいのだけど、それは何なの?」
と鋭く釘をさす。
「これはずーっと昔にあったスポーツで、ぶんぶん回して投げた距離で競う協議なの。ほらこんな感じで・・・」
と言いながら、くるくる回って見せた。薄紅はすごく気に入った様子で。
「わたしもやってみたい〜!!」
 と深沙にせがんだ。そんな様子を一部始終見ていた真紅は踵を返した。
「呆れたわ。それちょっと貸しなさい。宇宙百科事典で調べてあげる」
 深沙からリボンを取り返すとそのまま引きずって通路奥の書斎に入っていった。


 1時間位が過ぎ行き、やっと真紅の調べ物が終わったようで、自信に満ちた表情で書斎から出てきた。待ちくたびれたとばかりに綾音が口を開く。
「ねぇ、真紅。それって結局何なの?」
「壷よ。ここに花をさして飾る物だ」
 それを聞いた麻世は。
「それは、ちょうどいいわ。私の部屋で使います」
 みんなが納得していたときに、一人うたた寝をしていた薄紅。話し声にふと目を覚まし、目の前に転がっている何かを見つけるのにそう時間はかからなかった。
「あ!くるくるだぁ〜。くるくるするの〜〜!!」
 かなりあせった様子の麻世は。
「や、やめなさい!薄紅!!」
 思いっきりくるくる回る薄紅、壷もくるくる中を舞う。
「なんか、気持ち悪いの・・・」
 思い切りまわったのだからそれもそのはず、その場に座り込んだ。その姿に麻世は一息ついたが、その安著もつかの間、薄紅がリボンから手を離してしまったのである。壁に向かって転がっていく壷。もうもはや誰にも止めることができなかった。

 ガチャーーン!!

 「薄紅!!!」

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