翠玉興亡史・第1話
帝都から900万パーセクばかり離れ、既に辺境の趣が深い闇の中に少女たちの住む小惑星は存在した。
ぬくもりを与える光、オゾンの膜、そして大気も無いこの無機質な星では硬化セラミックの覆いと管理された気圧装置無くして生命の存在は許されない。
その保護された球体の中、木枯らしが吹き茶色く朽ちかけた一枚の広葉がしがみ付いている景色が展開されている様は、一種異様な光景である。本来、四季などという気象現象はありえない筈なのだから。
この時代では珍しい天然木の家具調こたつに身を埋め、そんな外の光景を眺めながら麻世は呟いた。
「もののあわれという崇高な理念に基づいてこの世界を設計したのよ」
テルミナス農園で作られたみかんを口元へと移しながら呟いた。
「だからって、こんなに寒くしなくても良いじゃない。大体、温度も気候も管理できるんでしょ」
恨めしそうな目つきで麻世を眺めながら、顎を天板に乗せその身を布団の中に一層押し込める。

※翠玉天宮の秋設定は日本の東北地方に準拠しています
「何事も伝統が大切なのよ。ご先祖様たちも、そうやってこの御領地を守ってきたのだから」
「伝統って、今が大切よ今が」
深沙が意気込むが麻世は気にする風もなく、さらにお茶菓子を手に取る。
「本当、お姉様は野暮なのだから」
むくれた深沙を気にするでもなく菓子鉢を覗き込むがお目当てのものは入っていなかった。
「入ってないわ。花梨、何かお菓子を持って来てちょうだい。」
菓子鉢をこたつの端に寄せて、花梨を呼びつける。
「姉様、少しま、て、て、て」

※でも、ハロウィンは行います
片足で器用に姿勢を保っていたのも束の間、派手な音を立てて畳へと花梨は吸い込まれた。同時に、手にもっていたものは宙を舞い麻世の後頭部目掛けて落ちていったのだ。
「お姉様、危ない」
体を右脇にずらし終えると、麻世は深沙に声をかけた。
「って」
何、と言おうとした瞬間に、カボチャが中に舞い、かばった深沙の頭めがけて落ちていく。
麻世はその光景の一部始終を見届けてから、冷静に一言つぶやいた。

※カボチャにも食用と飼料用が有ります
「ねえ、花梨。これってお茶菓子かしら?」
花梨はカボチャを指差してあわてながら
「んと・・ね、えと黄色くて大きくて甘いお菓子かなって」
失神している深沙を見るなり、ため息をひとつして
「あのね、花梨。これはもうすぐハロウィンだから、飾り付けように志津がこの前のお使いで買ってきたものなの。ましてや食べられないし・・・」
「はぅ・・」
花梨がたそがれていると、麻世の前に遠隔通信のホログラフ画面が投影された。
「麻姉、定期船への荷の搬入と受け取りが終了したよ。あと、沙弥嬢からトランターのお土産が届いているんだけど」
「中身は何かしら。綾音わかる」
「今手元にあるけど、開けてもいいかな」
「良いですわ。私が許可します」
綾音が慣れた手つきで、丁重に包装紙を剥がしていく。葉巻の船に太陽の図案が中央に施された箱の中には、紅茶の入った陶磁の茶壷が整然と鎮座していた。
「ティーセットみたいだけど、麻姉」
手に持ったものを、画面へと向ける。
「あら、沙弥さんときたら、いい物を送って下さったこと。いい機会だわ、お茶にしましょう。そちらの居間に行くので、準備をお願いしますわ」
「うん。準備しとくね」
綾音が言い終わると、画像が消えた。
「花梨、深沙のことよろしく頼んだわ。あと、カボチャ片付け終わったら貴方も来るように」
花梨は不安そうな顔を麻世に向ける。
「頭を冷やしてあげれば、そのうちに治ると思うわ」
そういい残すと、麻世は背を向け足早に過ぎ去っていった。
「どうしよう・・・・・」
後に残された花梨はただ途方にくれるばかりであった。