翠玉興亡史・第2話
概ね、交易用の宙港を持つ惑星ないし衛星というものは軌道昇降機にて地上と空層圏が接続されている。
ここ翠玉天宮にても、その設備は有るのだが麻世はいつも使用せずに連絡用の短艇を用いることが多かった。それは、今日も例外ではない。
「姉様、後片付けまだ終わってないんだからぁ!」
後片付けを任された筈の花梨であったが、何を思い立ったのか無理やり麻世によってこの船の操縦席に載せられていた。
「いいから、黙って運転しなさい。貴方に運転させる機会を忘れていたわ。」
「うぅ…軌道機使えばいいのに」
麻世が軽く花梨の頭を小突く。
「これも、星に住むものとしてのたしなみなのよ」
涙目を浮かべる綾音を横目に天上の煌きに目を流す麻世。
何もいう事が出来ず、花梨は心の中で誓った「大きくなったら、こんな辺境の星からにげてやる」と。
大規模な宙港において、その施設は一個の行政区に近い規模持つものも多数存在する。だが、辺境の小惑星では司令・応接の各室、物資格納用の倉庫、そして小・中規模の輸送船を接岸するための桟橋を備えた簡易型プレハブユニット港を用いるのが一般的とされている。
テラフォーミングもされていないこの地において存在する施設は勿論、後者の方である。
短艇を接岸させると、麻世と花梨は待ち合わせ場所のユニットへと降り立った。
綾音が走りよって来る姿を見るなり、麻世はいつものかわり映えしない町並みを見渡し、ふとため息をこぼす。
「何時見ても気品の感じられない建物ですこと」
綾音はそんないつもの麻世の表情を見るなり、いつもの調子で切り返す。
「仕方が無いよ麻姉。うちじゃ注文宙港なんて無理だもの」
いつか町並みを、お気に入りの雰囲気で満たしたい気持ちを心の奥底に沈め、少し八つ当たり気味に花梨にすっと言葉を投げつける。
「まあ良いわ。花梨、お茶を用意しなさい」
そう言うと、麻世は椅子に腰掛け帝都通信のニュース記事をホログラフに映し出す。そこにはにわかにくすぶりだした、帝都の大路を埋め尽くさんばかりの群集や軍人のクーデターの映像が繰り返し映し出されていた。
「帝都は相変わらずね・・・・・・。沙弥さんは大丈夫かしらね」
記事を読み進めながら不安げな顔を浮かべる。
「大丈夫じゃないの?さっき沙弥ちゃんからメールが届いたんだけど、帝都はいつもの朝を迎えていますだって」
「あら、だと良いのだけれど」
少し気持ちに安息がよぎると、辺りには柔らかく広がった紅茶の匂いが周囲の風を満たしていく。
「お茶できたけど〜ぉ」

※茶器のバランスを取りながら運ぶのは難しいです
ふらふらと、茶器一式を抱えながら花梨が厨房から歩いてきた。
「ご苦労様。カップを私に」
「あ〜ぃ」
やっとのことでそれを置くと、ぐったりと椅子につく花梨。
「さて、お茶にしましょう」
そう言うと、麻世はテーポットを取り紅茶をカップに注ぐ。

※怖い人ではありません
「あら、いい香りだこと・・・。流石は沙弥さんの選んだ物だこと」
その芳香に満更でも無いような顔つきで優美な極性を描いた唇を浸す。
「あのさ、麻姉」
カップを手に持ったまま、綾音が口を開く。
「このお返しは何がいいかな?」
「そうね・・・・・・」
麻世は普段の柄にも無く考え込む。
「あの、あのね花梨は、おっきな・・・」
「貴方は黙っていなさい」
花梨の口を遮り、更に考え込む。
「最近、帝都でこちらの花飾りが流行ってるみたいだけど・・・。沙弥ちゃんへの贈り物としてはどうかな?」
控えめな口調で綾音が割り込む。
「あら、いい考えじゃないの。早速、手配をお願いね」
飲み干した茶器を置き、麻世が答える。
「うんっ」
そう言うと笑みを浮かべ早速、制御卓を開く綾音。
「失礼の無いようにね綾音。と、いいお茶をありがとうと伝えて」
満足げな顔つきで綾音を眺める。
「さて、宮に戻りましょうか」
お茶を飲み終わってない花梨。
「ま、まだ飲み終わってないんだから!!」
「早く飲みなさい。あと、帰りは曲芸のような操縦をしないでね」
花梨は残ったカップの紅茶に写る自分の顔をじっと眺めた。そうして、やり場の無い気持ちをカップに流し込むように大きなため息をつくのだった。
そのころ天宮に残された深沙は、重く意識が薄れている頭をさすりながら目の前に転がっている黄色い大きなものに視線を投げる。
「ん〜大きなお茶菓子、美味しそう」

※飼料用のカボチャは食べられません
そう言うと凶器となったかぼちゃに無造作にかぶりつく
「あら・・・なにかしらぁ〜」
言葉にならない声を出してうめき声を上げる。
そういって麻世はまた宙を見上げるのだった。